猟奇歌より抜粋
夢野久作「猟奇歌」より個人的にグッときた歌をひたすら羅列します。ページ順に適当に。
今のわが恐ろしき心知るごとくストーブの焔くづれ落つるも
抱きしめるその瞬間にいつも思ふあの泥沼の底の白骨
ニセ物のパスで電車に乗つてみる超人らしいステキな気持ち
水の底で胎児は生きて動いてゐる母体は魚に喰はれてゐるのに
暗の中で俺と俺とが真黒く睨み合つた儘動くことが出来ぬ
色の白い美しい子を何となくイヂメて見たさに仲よしになる
美しい毛虫がもだえて這ひまはる硝子の瓶の夏の夕ぐれ
君の眼はあまりに可愛ゆしそんな眼の小鳥を思はず締めしことあり
欲しくもないトマトを少し噛みやぶり赤いしづくを滴らしてみる
何故に草の芽生えは光りを慕ひ心の芽生えは闇を恋ふのか
やは肌の熱き血しほを刺しもみでさびしからずや悪を説く君
親の恩を一々感じて行つたなら親は無限に愛しられまい
屍体の血はコンナ色だと笑ひつゝ紅茶を匙でかきまはしてみせる
煙突がドンドン煙を吐き出したあんまり空が清浄なので……
隣室に誰か来たぞと盲者が云ふ妻は行き得ずジツト耳を澄ます
腸詰に長い髪毛が交つてゐたジツト考へて喰つてしまつた
古着屋に女の着物が並んでゐる売つた女の心が並んでゐる
梟が啼いたイヤ梟ぢや無いといふ真暗闇に佇む二人
火の如きカンナの花の咲き出づる御寺の庭に地獄を思ふ
致死量の睡眠薬を看護婦が二つに分けてキヤツキヤと笑ふ
盲人がニコニコ笑つて自宅へ帰る着物の裾に血を附けたまゝ
日も出でず月も入らざる地平線が心の涯にいつも横たはる
涯てしなく並ぶ土管が人間の死骸を一つ喰べ度いと云ふ
ここに載せた他にも素敵な歌がたくさんあるので、気になった人は「猟奇歌」是非読んでみてください。
- 作者: 夢野久作
- 発売日: 2012/10/01
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る